
キーンと耳鳴りがうるさくストレスに感じているあなたへ
鳴り止まない耳鳴り、あきらめないで。鍼灸治療という新たな選択肢
「キーン」「ジー」「ゴーッ」…自分にしか聞こえない、不快な音が四六時中続いている。そんな「耳鳴り」の症状に悩まされていませんか?
耳鼻咽喉科に行っても「原因不明」「年のせい」「うまく付き合っていくしかない」と言われ、途方に暮れている方も少なくないでしょう。精神的なストレスも相まって、不眠や不安感、うつ状態にまで発展することもあります。
しかし、そのつらい耳鳴り、あきらめるのはまだ早いかもしれません。西洋医学とは異なるアプローチで身体を捉える「東洋医学」、特に鍼灸治療が、あなたの長年の悩みに光を当てる可能性があります。
今回は耳鳴りがなぜ起こるのか、そして鍼灸治療がなぜ耳鳴りに対して有効なのかを、西洋医学と東洋医学の両面から詳しく解説していきます。
そもそも「耳鳴り」とは何か?
まず、耳鳴りの基本について理解を深めましょう。
耳鳴り(じめい・みみなり)とは、外部に音源がないにもかかわらず、何らかの音が聞こえる状態を指します。それ自体が病気というよりは、何らかの身体の異常を知らせる「症状」の一つです。
音の種類は人それぞれで、金属音のような「キーン」、セミの鳴き声のような「ジー」、低いモーター音のような「ゴーッ」、風の音のような「ザー」など、多岐にわたります。また、聞こえ方も一日中鳴り続ける場合や、特定の状況で強くなる場合など様々です。
耳鳴りの分類
耳鳴りは大きく2つに分けられます。
・自覚的耳鳴り(じかくてきじめい)
本人にしか聞こえない耳鳴りで、全体の9割以上を占めます。内耳の障害や聴神経の異常などが関係していると考えられていますが、原因が特定できないことも多いのが特徴です。本記事で主に取り上げるのは、こちらのタイプの耳鳴りです。
・他覚的耳鳴り(たかくてきじめい)
非常に稀ですが、聴診器などを使うと外部の人にも聞こえる耳鳴りです。血流の音(血管性耳鳴)や、耳周りの筋肉のけいれん(筋性耳鳴)などが原因で、原因が特定しやすく、治療法も比較的明確です。
西洋医学から見た耳鳴りの原因と治療
耳鼻咽喉科などで行われる西洋医学的なアプローチでは、耳鳴りは主に「耳」そのものの問題として捉えられます。
考えられる主な原因
内耳の障害:最も多い原因とされ、音を感じ取る役割を持つ「有毛細胞」が、加齢や騒音、薬剤などの影響で傷つくことで、脳に異常な電気信号が送られ、それを脳が「音」として認識してしまう状態です。
難聴:加齢性難聴や騒音性難聴など、難聴を伴う耳鳴りは非常に多いです。聞こえが悪くなった音域を脳が補おうとして、過剰に興奮することが原因の一つと考えられています。
メニエール病:めまい、難聴と共に耳鳴りが現れる病気です。
ストレスや自律神経の乱れ:過度なストレスや疲労、睡眠不足は自律神経のバランスを崩し、血流の悪化や聴覚系の過敏性を引き起こし、耳鳴りを増悪させることがあります。
首や肩の凝り:首周りの筋肉が緊張すると、内耳への血流が阻害されたり、耳周辺の神経が圧迫されたりして耳鳴りの原因となることがあります。
その他:耳垢の詰まり、中耳炎、顎関節症、高血圧や糖尿病などの全身疾患が関連している場合もあります。
西洋医学的治療の現状
検査で明らかな原因が見つかればその治療を行いますが、「原因不明」とされる場合、根本的な治療法は確立されていないのが現状です。そのため、以下のような対症療法が中心となります。
薬物療法:血流改善薬、ビタミン剤、精神安定剤、漢方薬などが処方されますが、劇的な効果が得られるケースは少ないとされています。
TRT(Tinnitus Retraining Therapy:耳鳴り再訓練療法):カウンセリングと、ノイズ発生器で耳鳴り以外の音を聞く音響療法を組み合わせ、耳鳴りを「意識しない」ように脳を慣れさせていく治療法です。
補聴器:難聴を伴う場合、補聴器で聞こえを補うことで、脳が耳鳴りを意識しにくくなり、症状が緩和されることがあります。
これらの治療で改善する人もいますが、多くの人が満足のいく結果を得られず、「うまく付き合っていくしかない」という結論に至ってしまうのです。
東洋医学が捉える耳鳴り〜「耳だけの問題」ではない〜
西洋医学が「耳」という局所に注目するのに対し、東洋医学では耳鳴りを「全身のバランスの乱れが耳に現れたもの」と捉えます。身体は一つの有機的なつながりであり、耳はその一部であるという考え方です。
東洋医学では、生命活動の根源となるエネルギーである「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」が体内を巡ることで健康が保たれていると考えます。これらのバランスが崩れると、様々な不調が現れます。耳鳴りも、その不調のサインの一つなのです。
耳鳴りに対する鍼灸治療の具体的なアプローチ
鍼灸治療は、このように東洋医学的な診断に基づいて、耳鳴りの根本原因となっている全身のアンバランスを整えることを目的とします。単に耳の周りに鍼をするだけではありません。
1. 全身の調整〜根本原因へのアプローチ〜
まず、丁寧な問診や脈、お腹、舌の状態などを診て、その人の耳鳴りが「腎虚」なのか「肝火上炎」なのか、あるいは他の原因なのかといった「証(しょう)」を判断します。そして、その証に合わせて手足や背中、お腹などにあるツボに鍼やお灸をします。
腎虚の場合:「腎」のエネルギーを補うツボ(例:太谿、腎兪)を刺激し、生命力の底上げを図ります。
肝火上炎の場合:「肝」の昂りを鎮め、気の流れをスムーズにするツボ(例:太衝、行間)を使い、頭部に上った熱を下に降ろします。
こうして全身の気・血・水の巡りを整えることで、耳を養うエネルギーが正常に届くようになり、耳鳴りが起こりにくい身体環境を作っていきます。
2. 局所の調整〜症状の直接的な緩和〜
全身の調整と並行して、耳鳴りの症状を直接的に和らげるために、耳の周りにあるツボ(例:耳門、聴宮、聴会、翳風)にも鍼をします。これにより、内耳やその周辺の血流が促進され、聴覚に関わる神経の興奮を鎮める効果が期待できます。
また、耳鳴りの原因として見逃せない首や肩の凝りに対しても、関連する筋肉に直接アプローチし、緊張を緩和させます。これにより、頭部への血流が改善され、症状の軽減につながります。
期待できる効果
鍼灸治療によって期待できるのは、単に「音を消す」ことだけではありません。
音量の低下:耳鳴りの音が小さくなる。
音質の変化:不快な高音から、気になりにくい低音に変わる。
頻度の減少:一日中鳴っていたのが、鳴らない時間帯ができる。
随伴症状の改善:不眠、めまい、頭痛、肩こり、イライラなどのつらい症状が一緒に楽になる。
精神的な安定:自律神経が整うことで、耳鳴りに対する不安感や恐怖感が和らぐ。
特に、発症から日の浅い耳鳴りの方が改善しやすい傾向にありますが、長年悩まされている慢性的な耳鳴りでも、根気よく治療を続けることで、生活に支障がないレベルまで改善するケースは少なくありません。
治療と併せて行いたいセルフケア
鍼灸治療の効果を最大限に引き出し、再発を防ぐためには、日々の生活習慣の見直しも非常に重要です。
ストレス管理:深呼吸や軽い運動、趣味の時間など、自分なりのリラックス方法を見つけましょう。
十分な睡眠:身体を修復し、「腎」のエネルギーを養うために、質の良い睡眠を心がけましょう。
身体を冷やさない:特に首、足首、腰を冷やさないように工夫しましょう。温かい飲み物や食事を摂ることも大切です。
適度な運動:ウォーキングやストレッチなどで全身の血流を良くし、特に首周りの緊張をほぐしましょう。
騒音を避ける:大きな音は耳へのダメージになります。工事現場やライブ会場などでは耳栓をするなどの対策をしましょう。
あきらめる前に、一度ご相談ください
耳鳴りは、本人にしかわからない非常につらい症状です。西洋医学的な治療で思うような効果が得られず、「一生この音と付き合っていくしかないのか」と絶望的な気持ちになっている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、鍼灸治療は、あなたの身体を全く異なる視点から見つめ、その不調の根本原因にアプローチします。それは、耳鳴りという症状だけでなく、あなたが抱える心身全体のバランスを整え、本来持っている自然治癒力を高めていく治療です。
もしあなたが長引く耳鳴りに悩み、先の見えない不安の中にいるのなら、ぜひ一度、鍼灸治療という選択肢を検討してみてください。それは、つらい症状からの解放だけでなく、ご自身の身体と向き合い、より健やかな毎日を取り戻すための、新たな一歩になるかもしれません。

-
ストレス
ストレス性腰痛に対する鍼灸治療
慢性的な腰痛の要因としてアメリカでも注目されているストレス性の腰痛について、鍼灸治療の可能性とともに紹介します。 -
不妊症
不妊症に対する鍼灸治療
子供を授かりたくてもなかなか思うようにいかない方へ、鍼灸治療という選択肢を -
イライラ
更年期障害に対する鍼灸治療
近年男性にの更年期というものも多く診られるようになってきました。ホルモンの変化による更年期について紹介します。 -
めまい
顔面神経麻痺(ラムゼイハント症候群)に対する鍼灸治療
顔面神経麻痺の中でも後遺症が残りやすく完治は難しいと言われているラムゼイハント症候群について紹介します。 -
ベル麻痺
顔面神経麻痺(ベル麻痺)に対する鍼灸治療
突然顔の表情が作れなくなってしまう顔面神経麻痺、その中の一つベル麻痺について紹介します。 -
代官山
耳鳴りに対する鍼灸治療
様々な要因で引き起こされる耳鳴り 症状の程度によっては夜眠れないことも そんな耳鳴りについて、鍼灸治療を紹介します。