寝起きがつらくて起き上がれないと悩むあなたへ

朝起きられないのは「怠け」じゃないかも?つらい起立性調節障害と鍼灸治療という選択肢

​「朝、どうしても起きられない」「午前中は頭がぼーっとして、めまいや立ちくらみがひどい」。もしあなたや、あなたのお子さんがこんな症状に悩まされているなら、それは単なる「怠け」や「気合の問題」ではないかもしれません。そのつらい症状の裏には、起立性調節障害(OD:Orthostatic Dysregulation)という病気が隠れている可能性があります。

​思春期の子どもたちに多く見られるこの病気は、周囲から理解されにくく、本人も家族も苦しむことが多いのが実情です。しかし、適切な理解と治療によって、症状は必ず改善します。

​今回は、起立性調節障害とはどのような病気なのかを詳しく解説するとともに、西洋医学的な治療法に加えて、近年注目されている鍼灸治療がなぜ有効なのか、その可能性について紹介します。

●そもそも「起立性調節障害(OD)」ってどんな病気?

​私たちの体は、寝ている状態から立ち上がるとき、重力によって血液が下半身に溜まらないように、自律神経が血管を収縮させて血圧を維持しています。起立性調節障害は、この自律神経系のバランスが崩れ、血圧のコントロールがうまくいかなくなることで発症する病気です。

​立ち上がったときに脳への血流が一時的に低下し、さまざまなつらい症状を引き起こします。特に、自律神経が活発に働き始める午前中に症状が強く現れ、午後になると回復してくるのが大きな特徴です。

●あなたの症状はどれ?ODセルフチェックリスト

​日本小児心身医学会のガイドラインによると、以下の11項目のうち3つ以上当てはまるか、2つでも症状が強ければ起立性調節障害の疑いがあります。

​☐ 立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい

​☐ 立っていると気分が悪くなる、ひどいと倒れる

​☐ 入浴時や嫌なことを見聞きすると気分が悪くなる

​☐ 少し動くと動悸や息切れがする

​☐ 朝、なかなか起きられず午前中は調子が悪い

​☐ 顔色が青白い

​☐ 食欲がない

​☐ おへその周りが時々痛む

​☐ 倦怠感、あるいは疲れやすい

​☐ 頭痛がする

​☐ 乗り物酔いしやすい

​これらの症状は、怠けているように見えたり、精神的な問題だと誤解されたりすることが少なくありません。しかし、これは本人の意思とは関係なく起こる身体の病気なのです。

●なぜ思春期に多いの?その原因とは

​起立性調節障害は、小学生高学年から中学生にかけての思春期に発症のピークを迎えます。この時期は、体の急激な成長に自律神経の発達が追いつかず、バランスを崩しやすい時期です。

​主な原因としては、以下のようなものが考えられています。

自律神経の未熟さ: 急激な身体の成長に、心臓や血管をコントロールする自律神経の働きが追いつかない。

遺伝的要因: 親子で同じような体質を持つケースも見られます。

心理社会的ストレス: 学校や家庭での人間関係、勉強の悩みなどが自律神経の乱れに拍車をかけることがあります。

生活習慣の乱れ: 夜更かしや運動不足は、自律神経のリズムを崩す大きな要因となります。

水分・塩分不足: 体内の水分量が少ないと、血液量も減少し、血圧が上がりにくくなります。

​これらの要因が複雑に絡み合い、発症につながると考えられています。

​病院ではどんな治療をするの?

​小児科や内科を受診すると、まず問診や血圧測定(新起立試験など)を行い、起立性調節障害かどうかを診断します。治療の基本は、薬物療法と非薬物療法(生活習慣の改善)の二本柱です。

​・非薬物療法

​水分を多めに摂る(1.5〜2リットル/日)

​塩分を少し多めに摂る

​毎日30分程度のウォーキングなど、無理のない範囲での運動

​立ち上がる際は、頭を下げてゆっくりと

​規則正しい生活リズムを心がける

​・薬物療法

​血圧を上げる薬(昇圧剤)

​症状に応じて漢方薬などが処方されることもあります

​これらの治療で多くの患者さんは改善に向かいますが、中には薬が効きにくかったり、副作用が気になったりするケースもあります。そこで、新たな選択肢として注目されているのが鍼灸治療です。

●なぜ鍼灸が起立性調節障害にアプローチできるのか?

​東洋医学の世界では、起立性調節障害のような症状は、体のエネルギーである「気」や、血液とその働きを指す「血(けつ)」の流れが滞ったり、バランスが崩れたりすることで起こると考えます。特に、自律神経の働きと深く関わる「肝」「心」「脾」といった臓腑の機能失調が原因と捉えることが多いです。

​鍼灸治療は、この「気・血」の巡りを整え、五臓のバランスを調整することを得意としています。

​鍼灸治療の3つの大きなアプローチ

・自律神経のバランス調整

鍼や灸で特定のツボを刺激することは、興奮モードの交感神経と、リラックスモードの副交感神経のスイッチの切り替えをスムーズにする効果が科学的にも分かってきています。起立性調節障害の多くは、このスイッチがうまく機能していない状態です。鍼灸治療によって、体のオン・オフの切り替えを正常化し、血圧や心拍数の急激な変動を穏やかにしていきます。特に、頭部や首、背中、手足にある自律神経を整えるツボが効果的です。

・血流の改善

「朝起きられない」「頭がぼーっとする」といった症状は、脳への血流不足が大きな原因です。鍼灸には、筋肉の緊張を和らげ、血管を拡張させて全身の血行を促進する作用があります。特に、脳へ血液を送る重要なポイントである首や肩周りの筋肉のコリを鍼で緩めることで、脳の血行促進が期待でき、頭痛やめまい、倦怠感といった症状の軽減につながります。

​・心身のリラックスと自然治癒力の向上

鍼灸治療には、セロトニンなどのリラックス効果のある脳内物質の分泌を促す作用があると言われています。心地よい刺激は、ストレスで高ぶった神経を鎮め、心身をリラックス状態に導きます。これにより、睡眠の質が向上し、夜にしっかり休んで朝にすっきりと目覚めるという、本来の生活リズムを取り戻す助けとなります。また、体全体のバランスが整うことで、人間が本来持っている自然治癒力が高まり、症状が出にくい体質へと変化していきます。

副作用が少なく、体にやさしい治療

​薬物療法に比べて副作用の心配がほとんどないのも、鍼灸治療の大きなメリットです。特に、成長期のお子さんや、薬に敏感な方にとっては、安心して受けられる治療法と言えるでしょう。使用する鍼も髪の毛ほどの細さで、痛みはほとんど感じません。お灸も、じんわりと温かい心地よいものが主流です。

​●鍼灸治療の有効性:科学的根拠と実際の声

​「鍼灸って本当に効くの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。

​現状、起立性調節障害に対する鍼灸治療の有効性については、大規模な臨床研究がまだ少なく、「科学的エビデンスは限定的」というのが医学界での一般的な見解です。日本小児心身医学会も、現時点では標準治療として推奨はしていません。

​しかし、これは「効果がない」ということではありません。個別の症例報告や臨床現場では、鍼灸治療によって症状が劇的に改善したというケースが数多く報告されています。

​ある研究では、薬物療法で改善が見られなかった中学生の患者に鍼灸治療を行ったところ、起床困難や腹痛などの症状が改善し、遅刻・欠席がゼロになったという報告もあります。

​また、WHO(世界保健機関)は、鍼灸が有効であるとする疾患の中に、頭痛、めまい、高血圧、低血圧などを挙げており、これらは起立性調節障害の症状と深く関連しています。

​つまり、「大規模なデータはまだ少ないが、臨床現場では明らかに良い結果が出ており、関連症状への有効性も認められている」というのが現状です。

​何よりも大切なのは、つらい症状で悩んでいる本人が、改善の可能性を感じられることです。実際に治療を受けた方からは、

​「あんなに起きられなかった朝、少しずつ起きられるようになってきた」

​「頭痛やめまいが減って、学校に行ける日が増えた」

​「体が楽になっただけでなく、気持ちも前向きになれた」

​といった喜びの声が聞かれます。

​まとめ:あきらめないで、一人で悩まず専門家へ

​起立性調節障害は、本人の努力不足や気持ちの問題ではありません。体の機能がうまく働いていないだけの「病気」です。そして、その症状は必ず改善することができます。

​もし、あなたやあなたの大切な人が、朝起きられない、午前中の不調が続くといった症状で悩んでいるなら、まずは小児科や専門の医療機関を受診してください。その上で、西洋医学的な治療だけでは改善が見られない場合や、副作用が心配な場合には、鍼灸治療という選択肢があることをぜひ知っておいてください。

​鍼灸は、自律神経のバランスを整え、血流を改善し、体全体の調和を取り戻すことで、あなたの体が本来持っている「治る力」を引き出してくれます。

​一人で抱え込まず、専門家に相談することで、つらい症状から抜け出す道は必ず見つかります。明るい朝を、そして笑顔の毎日を取り戻すために、勇気を出して一歩を踏み出してみませんか。