首の痛み・腕の痺れに悩むあなたへ

頚椎症と鍼灸治療の有効性

頚椎症は、現代社会において多くの人々が悩む身近な疾患の一つです。スマートフォンの普及やデスクワークの増加に伴い、首や肩の不調を訴える方が増えています。今回は、頚椎症のメカニズム、一般的な治療法、そして東洋医学に基づく鍼灸施術がどのように有効であるかについて、詳しく解説していきます。

●頚椎症とは何か?そのメカニズムと症状

頚椎症は、首の骨である頚椎とその周辺組織に様々な変性が生じることで発症する病態の総称です。主に、加齢による椎間板の変性、骨棘の形成、靭帯の肥厚などが原因となり、神経や脊髄が圧迫されることで症状が現れます。

1 頚椎の構造と役割

人間の首には7つの頚椎があり、頭部を支え、複雑な動きを可能にしています。各頚椎の間にはクッション材の役割を果たす椎間板があり、衝撃を吸収しています。また、頚椎の内部には脊髄が通り、脳と体の各部位をつなぐ神経の束が走行しています。この構造のどこかに異常が生じると、頚椎症の症状が出現します。

2 頚椎症の種類と症状

頚椎症は、圧迫される神経や脊髄の部位によって2つのタイプに分けられます。

  • 頚椎症性神経根症(けいついしょうせいしんけいこんしょう): 椎間板の肥厚や骨棘により、脊髄から枝分かれする神経根が圧迫されることで発症します。症状は、首から肩、腕、指先にかけての痛み、しびれ、脱力感などが出現します。特定の姿勢や動作で症状が悪化することが多いです。
  • 頚椎症性脊髄症(けいついしょうせいせきずいしょう): 脊柱管が狭くなり、脊髄そのものが圧迫されることで発症します。より重篤な症状が出現する可能性があり、両手足のしびれや運動障害、歩行障害、排尿・排便障害などがみられることもあります。箸がうまく使えない、ボタンが留められないといった巧緻運動障害も特徴的です。

その他…バレ・リュー症候群(頚部交感神経症候群): 頚部の交感神経が刺激されることで、自律神経系の不調が現れる病態です。めまい、耳鳴り、眼精疲労、発汗異常、不眠、動悸などが主な症状です。診断が難しく、他の疾患との鑑別が必要になります。

・頚椎症の主な原因

  • 加齢: 椎間板の水分が失われ、弾力性が低下することで、変性が進行します。骨棘(骨のトゲ)が形成されやすくなります。
  • 姿勢の悪さ: 長時間のスマートフォン使用(ストレートネック)、デスクワークでの猫背、前かがみの姿勢などは、頚椎に過度な負担をかけ、変性を促進します。
  • 外傷: 交通事故によるむち打ちなど、頚部への強い衝撃が頚椎症の原因となることがあります。
  • 遺伝的要因: 一部では、体質的に頚椎症になりやすい方もいます。

●頚椎症の一般的な治療法

頚椎症の治療は、症状の程度や種類によって異なりますが、保存療法が主体となります。

1 保存療法

  • 安静と固定: 急性期には、頚椎カラーなどを用いて首を安静に保ち、炎症を抑えます。
  • 薬物療法: 痛みや炎症を抑えるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、筋弛緩剤、神経障害性疼痛治療薬などが処方されます。
  • 理学療法: 首や肩のストレッチ、筋力強化運動、姿勢指導、温熱療法、牽引療法などが行われます。血行改善や筋肉の柔軟性向上、正しい姿勢の維持を目指します。
  • ブロック注射: 痛みが強い場合、神経根周囲に局所麻酔薬やステロイドを注射し、痛みを緩和します。

2 手術療法

保存療法で症状が改善しない場合や、脊髄症状が進行している場合、神経麻痺がある場合などには、手術が検討されます。手術は、神経や脊髄の圧迫を取り除くことを目的とします。

●鍼灸施術による頚椎症へのアプローチ

鍼灸施術は、頚椎症に対する有効な選択肢の一つとして注目されています。全身のバランスを整え、自然治癒力を高めることで、症状の緩和を目指します。

1. 鍼灸施術の具体的な効果

鍼灸施術は、これらの東洋医学的な観点に基づいて、様々な効果を発揮し、頚椎症の症状緩和に貢献します。

  1. 鎮痛効果: 鍼の刺激は、脳内でエンドルフィンやエンケファリンといった内因性鎮痛物質の分泌を促進します。これにより、痛みの閾値が上がり、痛みが軽減されます。また、ゲートコントロール説により、鍼の刺激が痛みの信号を遮断する働きも指摘されています。
  2. 血行促進効果: 鍼を刺入することで、その周囲の血管が拡張し、血流が増加します。これにより、炎症物質や疲労物質の除去が促進され、新鮮な酸素や栄養素が供給されることで、組織の修復が促されます。凝り固まった筋肉の緩和にもつながります。
  3. 筋緊張緩和効果: 鍼の刺激は、過緊張状態にある筋肉を緩める作用があります。トリガーポイント(圧痛点)への直接的なアプローチや、関連する経穴への刺激により、筋肉のスパズム(痙攣)を抑制し、首や肩の可動域を改善します。
  4. 自律神経調整効果: 鍼灸施術は、交感神経と副交感神経のバランスを整える作用があります。ストレスや痛みが継続すると、交感神経が優位になりがちですが、鍼灸は副交感神経の働きを促進し、リラックス効果をもたらします。これにより、睡眠の質の改善や、めまい、耳鳴りといった自律神経症状の緩和にもつながります。
  5. 抗炎症作用: 鍼灸刺激は、体内の免疫系を活性化させ、炎症反応を抑制するサイトカインの産生を促すことが示唆されています。これにより、神経根の炎症など、頚椎症における炎症反応を抑える効果が期待できます。
  6. 自然治癒力の向上: 東洋医学の根幹にある考え方として、鍼灸は個々の体が本来持っている自然治癒力を最大限に引き出すことを目的としています。全身のバランスを整えることで、単なる症状の緩和だけでなく、体質そのものの改善を目指します。

2. 鍼灸施術の具体的な手技

頚椎症に対する鍼灸施術では、以下のような経穴やアプローチがよく用いられます。

  • 局所治療: 首や肩の圧痛点、硬結部位、関連する経穴(例:天柱、風池、完骨、肩井、曲垣など)に鍼を刺入し、直接的な筋緊張緩和と血行促進を図ります。神経根症状がある場合は、関連する神経支配領域の経穴も使用します。
  • 遠隔治療: 手足にある経穴(例:合谷、手三里、後谿、足三里、太衝など)は、頚部の症状に効果があるとされる「遠隔穴」として用いられます。局所への刺激が難しい場合や、全身のバランスを整える目的で使用します。
  • 温灸(おんきゅう): 艾(もぐさ)を用いた温熱療法で、血行促進、筋緊張緩和、冷えの改善に効果的です。特に、冷えを伴う痛みや慢性的なこりに対して有効です。

●鍼灸施術と西洋医学の併用効果

鍼灸施術は、西洋医学的な治療と併用することで、より高い効果が期待できます。例えば、薬物療法で痛みをコントロールしながら、鍼灸で筋肉の緊張を緩和し、血行を改善するといった相乗効果が考えられます。また、手術後のリハビリテーションの一環として、鍼灸を取り入れることで、回復を早め、再発予防にも繋がると考えられます。

重要なのは、患者さん一人ひとりの状態に合わせて、最適な治療計画を立てることです。医師と鍼灸師が連携し、それぞれの専門性を活かすことで、患者さんのQOL(生活の質)向上に貢献できます。

●予防とセルフケア

頚椎症の予防には、日々の生活習慣の見直しが不可欠です。鍼灸施術と並行して、以下のセルフケアを実践することで、症状の改善と再発予防に繋がります。

  • 正しい姿勢の維持: スマートフォンの使用時やデスクワーク時には、首が前に突き出さないよう意識し、目線を高く保ちましょう。PC作業では、モニターの高さを調整し、背筋を伸ばして座ることが大切です。
  • 適度な運動とストレッチ: 首や肩、肩甲骨周りのストレッチを定期的に行い、筋肉の柔軟性を保ちましょう。ウォーキングや水泳など、全身運動も血行促進に有効です。
  • 首を冷やさない: 特に寒い時期は、首元を冷やさないようにスカーフやタートルネックなどで保温しましょう。
  • 睡眠環境の整備: 自分に合った高さと硬さの枕を選び、頚椎に負担のかからない寝姿勢を心がけましょう。
  • ストレス管理: ストレスは筋肉の緊張を強め、痛みを悪化させる要因となります。リラックスできる時間を作り、ストレスを上手に解消しましょう。

頚椎症は、その症状によって日常生活に大きな影響を与える疾患です。しかし、適切な治療とセルフケアを行うことで、症状を緩和し、快適な生活を取り戻すことが可能です。

鍼灸施術は、痛みの緩和、血行促進、筋緊張の緩和、自律神経の調整など、多角的なアプローチで頚椎症の症状改善に貢献します。東洋医学的な視点から全身のバランスを整えることで、根本的な体質改善を目指し、自然治癒力を高めることができます。

もし、あなたが頚椎症の症状でお悩みでしたら、西洋医学的な治療と並行して、鍼灸施術という選択肢も検討してみてはいかがでしょうか。ご自身の症状に合わせた最適な治療計画を見つけることが、改善への第一歩となるでしょう。日々の生活習慣にも気を配り、頚椎に優しい生活を心がけましょう。

今までの診療経験上頚椎症は酷いものだと、腕の位置や肩の開き具合などによって夜眠れないほどの症状に悩まされる方もいます。

首の痛み、腕の痺れなどでお悩みの方は是非一度当院にお問い合わせください。