
腕が上がらない!五十肩に悩むあなたへ
五十肩に悩むあなたへ
「腕が上がらない」「夜中にズキズキ痛む」「着替える事が辛い」——もしあなたが今、このような五十肩の症状に苦しんでいるなら、その辛さは計り知れないことでしょう。日常生活に大きな支障をきたし、精神的にも負担となる五十肩。しかし、諦める必要はありません。鍼灸治療をすることで、その痛みを和らげ機能改善を促す新たな選択肢となるかもしれません。
今回は、五十肩のメカニズムから、なぜ鍼灸治療が有効なのか、具体的な治療法点まで解説していきます。
五十肩とは何か? その正体と症状を深く理解する
五十肩は、医学的には「肩関節周囲炎」と呼ばれ、その名の通り、肩関節の周囲に炎症が起こり、痛みと可動域制限を引き起こす疾患です。特に40代から60代にかけて多く発症することから「五十肩」という通称が定着しました。
なぜ五十肩になるのか?
残念ながら、五十肩の明確な原因はまだ特定されていません。しかし、いくつかの要因が複合的に関与していると考えられています。
- 加齢による変化: 肩関節を構成する腱板や関節包、滑液包などの組織が、加齢とともに柔軟性を失い、変性しやすくなります。
- 血行不良: 肩周囲の血行が悪くなることで、組織への栄養供給が滞り、老廃物が蓄積しやすくなります。
- 姿勢の悪さや使いすぎ: 長時間のデスクワークや不自然な姿勢、肩への過度な負担などが、肩関節周囲の組織にストレスを与え、炎症を引き起こす可能性があります。
五十肩の典型的な症状
五十肩の症状は、その進行度合いによって主に以下の3つの段階に分けられます。
- 急性期(炎症期):
- 強い痛み: 特に安静時や夜間にズキズキとした痛みが現れることが多く、「夜間痛」は五十肩の代表的な症状です。
- 可動域制限の始まり: 腕を上げたり、後ろに回したりする動作で痛みが強くなり、少しずつ可動域が制限され始めます。
- 慢性期(拘縮期):
- 痛みの軽減: 急性期のような激しい痛みは和らぎますが、動作時の痛みは残ります。
- 著しい可動域制限: 肩関節が「固まる」ように動きが悪くなり、腕を上げる、背中に手を回すといった動作が非常に困難になります。日常生活での支障が顕著になります。
- 回復期:
- 可動域の改善: 痛みが徐々に治まり、肩関節の可動域が少しずつ回復してきます。
- 筋力の回復: 痛みによって使われなかった筋肉の筋力が回復してきます。
これらの症状は、患者さんによって程度や期間が異なります。自己判断せず、専門医や治療院で適切な診断を受けることが重要です。
東洋医学から見た五十肩:気血の流れと経絡の視点
西洋医学が局所の炎症と構造的な変化に焦点を当てるのに対し、東洋医学では、五十肩を「気(生命エネルギー)と血(血液)の流れの滞り」として捉えます。
肩関節周囲は、東洋医学でいう「経絡(けいらく)」と呼ばれるエネルギーの通り道がいくつも集中している場所です。気血の流れが滞ると、これらの経絡上で「瘀血(おけつ)」と呼ばれる血の滞りや、「気滞(きたい)」と呼ばれる気の滞りが生じ、それが痛みや可動域制限の原因となると考えられます。
鍼灸治療は、これらの経絡やツボ(経穴)にアプローチすることで、気血の流れを整え、滞りを解消し、身体全体のバランスを回復させることを目指します。
鍼灸治療が五十肩に有効な理由:科学的根拠と臨床的知見
では、具体的に鍼灸治療が五十肩にどのように作用し、有効性をもたらすのでしょうか。
- 鎮痛効果(痛みの軽減)
- 内因性オピオイドの分泌促進: 鍼刺激は、脳内でエンケファリンやエンドルフィンといった内因性オピオイドの分泌を促進することが科学的に報告されています。これらの物質は、モルヒネのような強い鎮痛作用を持ち、痛みの信号伝達を抑制します。
- 血流改善による発痛物質の除去: 鍼刺激は、局所の血管を拡張させ、血流を促進します。これにより、炎症によって生じた発痛物質や老廃物の排出が促進され、痛みが軽減されます。
- 炎症の抑制
- 鍼刺激が、免疫細胞の働きを調整し、過剰な炎症反応を抑える可能性が示唆されています。また、抗炎症性物質の放出を促すという報告もあります。
- 筋緊張の緩和と可動域の改善
- 筋紡錘への作用: 鍼を筋肉に刺入することで、過剰な筋緊張を緩和させます。これにより、硬くなった筋肉が緩み、関節の動きがスムーズになります。
- トリガーポイントへのアプローチ: 五十肩では、肩関節周囲の筋肉に「トリガーポイント」と呼ばれる痛みの原因となる硬結が生じることがよくあります。鍼治療はこれらのトリガーポイントに直接アプローチし、血流を改善し、筋緊張を解除することで、痛みの軽減と可動域の改善に繋がります。
- 自己治癒力の向上
- 自律神経の調整: 鍼灸治療は、自律神経のバランスを整える作用があります。自律神経が整うことで、リラックス効果が高まり、身体の回復力が促進されます。
近年、五十肩に対する鍼灸治療の有効性に関する臨床研究が増加しています。システマティックレビューやメタアナリシスといった研究では、鍼治療が五十肩患者の疼痛軽減と機能改善において、他の治療法と同等、あるいはそれ以上の効果を示す可能性が報告されています。特に、急性期の疼痛緩和においては、その即効性が注目されています。
五十肩に対する具体的な鍼灸治療の進め方
五十肩に対する鍼灸治療は、患者さんの症状の段階や個々の体質、痛みの程度に合わせて、オーダーメイドで行われます。
- 問診・視診・触診(東洋医学的診断) 痛みの部位、性質、時間帯による変化、生活習慣などを詳細に把握します。
- ツボ(経穴)の選定 五十肩の治療に用いられる代表的なツボは多岐にわたりますが、症状や痛みの部位によって使い分けられます。
- 肩周囲の局所的なツボ: 肩髃(けんぐう)、肩貞(けんてい)、肩井(けんせい)、天宗(てんそう)など。
- 遠隔のツボ(手足のツボ): 曲池(きょくち)、手三里(てさんり)、陽池(ようち)、外関(がいかん)や、足三里(あしさんり)、太衝(たいしょう)、陽陵泉(ようりょうせん)なども全身の気血を調整するために用いられます。
- 鍼(はり)治療 鍼は、非常に細いステンレス製の使い捨て鍼を使用します。痛みはほとんど感じないか、チクっとする程度です。
- 刺入深度と刺激方法: 症状やツボの位置によって、鍼を刺す深さや刺激の強さを調整します。
- 灸(きゅう)治療 お灸は、ヨモギの葉を乾燥させて作った「もぐさ」を燃焼させ、その温熱刺激でツボを温める治療法です。
- 五十肩への効果: 温熱作用により、血行が促進され、筋肉の緊張が緩和されます。特に慢性期で冷えが強い場合や、関節の動きが悪い場合に有効です。
鍼灸治療を受ける上での注意点と期待できる効果
治療期間と回数
五十肩の治療期間は、症状の程度や発症からの期間、個人の回復力によって大きく異なります。
- 急性期: 強い痛みが続く時期は、週に2~3回の頻度で集中的に治療を行うことで、痛みの早期軽減を目指します。
- 慢性期~回復期: 痛みが落ち着いてきたら、週に1回、または2週に1回と頻度を減らし、可動域の改善と再発予防を目指します。
- 全体の期間: 短い方で数週間、長い方では数ヶ月から半年程度の治療が必要となることもあります。焦らず、根気強く治療を続けることが大切です。
期待できる効果
- 痛みの軽減: 夜間痛や安静時痛、動作時痛の緩和。
- 可動域の改善: 腕を上げる、回す、背中に手を回すなどの動作がスムーズになる。
- 筋緊張の緩和: 肩周囲の硬くなった筋肉がほぐれ、肩こりなどの付随症状も改善。
- QOL(生活の質)の向上: 日常生活の動作が楽になり、活動範囲が広がる。
五十肩と上手につきあうためセルフケアと予防
鍼灸治療だけでなく、日常生活でのセルフケアも五十肩の改善と再発予防には欠かせません。
- 温めることの重要性 急性期は除き、肩周囲を温めることで血行が促進され、痛みが和らぎ、筋肉の柔軟性が向上します。入浴や蒸しタオル、使い捨てカイロなどを活用しましょう。
- 適度な運動とストレッチ 急性期の激しい痛みがある場合は控えるべきですが、痛みが落ち着いてきたら、無理のない範囲で積極的に動かすことが重要です。振り子運動や壁を使った腕上げ運動、タオルを使ったストレッチなどがあります。
- 正しい姿勢の維持 長時間の猫背や前かがみの姿勢は、肩に負担をかけます。デスクワークの際は、定期的に休憩を取り、正しい姿勢を意識しましょう。
- 十分な睡眠とストレス管理 睡眠不足やストレスは、痛みを悪化させる要因となります。質の良い睡眠を確保し、ストレスを上手に解消する方法を見つけましょう。
鍼灸治療で五十肩を克服し、笑顔を取り戻そう
五十肩は、一度発症すると長く付き合わなければならない厄介な疾患です。しかし、鍼灸治療は、その痛みと可動域制限を改善し、日常生活の質を取り戻すための強力なサポートとなる可能性があります。
鍼灸治療は、単に症状を抑えるだけでなく、患者さん一人ひとりの体質や状態に合わせた根本的なアプローチを行います。身体が本来持っている自然治癒力を引き出し、気血の流れを整えることで、痛みのないスムーズな腕の動きを取り戻し、あなたらしい生活を送る手助けをしてくれるでしょう。
もし今、あなたが五十肩で悩んでいるなら、一度、鍼灸治療を受けてみてはいかがでしょうか。諦めずに、ご自身の身体と向き合い、鍼灸治療という新たな選択肢を通して、五十肩を克服し、笑顔溢れる日々を取り戻してください。
少しでも早く日々の不調から解き放たれるためにお困りの方は是非一度お気軽にご相談ください。

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